成果事例
年齢別平均と比較するビーナス体力測定結果まとめ
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株式会社ビーナスは、3ヶ月に1度、ご利用者様の「体力測定」を実施しています(事業所によって、5種の場合と3種の場合有り)。
弊社において「体力測定」を行う目的は、ご利用者様がご自身の成果を実感していただくことで、より楽しく・積極的に運動に取り組んでいただくためのものであり、誰かと比較するためではありません。
しかし一方で、運動プログラムを設計する私たちは、より安全で高い効果の運動プログラムをご提供させていただくため、ご利用者様のADLの特徴や変化をしっかりと把握しておく必要があると考えます。
そこで、今回のビーナスレポートでは、前後編に分けて弊社をご利用いただく皆様のADLの特徴と、その結果をもとに設計した運動プログラムでどのようなADLの変化が起きたのかについてまとめてみました。
まず前編となる今回の記事では、事前に仮説をたてた年齢別の体力測定値に対して、弊社の「ビーナスクラブ」の計7つの事業所で実施した体力測定結果(計測回数のべ2,769回)がどのような特徴を示すのかについてまとめています。
5種目の体力測定を分類すると以下のような特徴が分かりました。
介護認定者におけるウィークポイントは複合動作の運動項目だと判明したので、体幹や複数の筋肉を使う動作を中心とした運動プログラムの実施に力を入れています。
各項目の年齢・性別による特徴や、これをもとにした弊社の運動プログラムの設計についてご紹介させていただきます。
今回、年代別平均の数値として利用したデータは、NPO法人みんなのスポーツ協会主催の「スポーツ&フィットネスセミナー」の内容や、弊社に協力いただいている大学の教授・理学療法士の先生方と協議して決定したものになります。
また、【立ち上がり】を「30秒間に立ち上がれた回数」から「5回立ち上がるのに必要な秒数」に変更するなど、ご利用者様に負荷がかかりすぎない方法に調整させていただいております。
体力測定実施要項
体力測定の5項目の詳細は以下の通り。
【握力】
全身の筋力の指標。足は肩幅に開き、握力計が体に触れないよう、人差し指の第二関節が直角になるように握る。左右交互に2回ずつ計測し、最も良い数値を記録。
【立ち上がり】
下肢の筋力の指標。測定用の椅子を利用。足を肩幅に開き、踵を引いて地面にしっかりつける。計5回の立ち上がりの総時間を記録。計測回数は2回。
【開眼片足立ち】
静的バランス能力の指標。両手は腰にあて、挙げている足が地面についたり、支持足に触れたり、バランスが崩れたら終了。測定回数は2回、それぞれの足で記録。
【タイムド・アップ・アンドゴー】
総合的運動能力の指標。椅子から立ち上がり、3m離れたコーンを回って椅子まで戻ってくるタイムを計測。計測回数は2回。
【ステッピング】
敏捷性の指標。床に30cm幅のラインを引き、椅子に浅く腰掛けた状態で足裏を地面につける。両手で椅子を持って体を安定させ、合図と同時にラインをまたぐ形で足を開閉する。20秒間のうち、足がラインの内側に戻った回数(往復回数)を記録。計測回数は2回。
体力測定実施回数
5項目の体力測定を実施している7つの事業所、計994名のご利用者様に実施した体力測定について、延べ測定回数2,768回の結果をもとに分析を行う。
年齢、性別、および四肢の麻痺の有無をもとにした分布は以下の通り。
※ビーナスのご利用者様には「~65歳」「91歳~」の2つの年齢層も存在するが、マニュアルに沿った測定が困難になってきているため今回のデータでは省略している。
年齢別平均と比較するビーナス体力測定結果
以下のグラフは、年齢別平均とビーナスに通っていただいているご利用者様の体力測定結果を比較したものである。
※青系統は男性、赤系統は女性。
※グラフの順番は左から「年齢別平均」「ビーナス(麻痺なし)」「ビーナス(麻痺あり)」
握力
全身の筋力の指標となる【握力】。
数値が大きい方が高評価であり、加齢とともに数値は減少していく。
一方、ビーナスにおける計測では、全ての年齢層において、世代別平均を大きく上回る数値を記録。
左右どちらかの数値の良い方、ということで、仮にどちらかの手に麻痺がある場合でも、もう一方の手の数値を伸ばすことができているのが分かる。
他項目との数値的なバランスを見ながら、ご利用者様お一人お一人に合わせた「伸ばしたい点」をしっかりと見極めていきたい。
立ち上がり
下肢の筋力の指標である【立ち上がり】。
計5回の立ち上がりに必要な時間を計測しているので、数値が小さい方が高評価であり、加齢とともに数値は増加してく。
ビーナスにおける計測では、残念ながら全ての年齢層において、世代別平均を下回る数値を記録。
「介護認定を受ける=介護や日常生活に支援が必要な状態」ということから判断すれば、上肢よりも下肢の筋力的な衰えが大きいものと思われる。
年齢層でみると、比較的若い年代において、世代別平均との差が見られる。
早期に介護認定を受けたご利用者様にむけた、日常生活を支援できる運動プログラムの策定に力を注いでいきたい。
開眼片足立ち
▼右足
▼左足
静的バランス能力の指標である【開眼片足立ち】。
片足で立ち続けることのできた時間、ということで数値が大きい方が高評価であり、加齢とともに数値は減少していく。
ビーナスにおける計測では、全ての年齢層において、世代別平均を大きく上回る数値を記録。
【握力】に引き続き、静止した状態での計測項目においては、日々の運動による身体機能の向上が見て取れる。
また、世代別平均との差を男女で比較した場合、【握力】は男性の方が差が大きく、【開眼片足立ち】は女性の方が差が大きい。
それぞれの性別における特徴を、より一層伸ばすことができているのが分かる。
タイムド・アップ・アンドゴー
総合的運動能力の指標である【タイムド・アップ・アンドゴー】。
決められた距離を歩く時間、ということで数値が小さい方が高評価であり、加齢とともに数値は増加していく。
ビーナスにおける計測では、残念ながら全ての年齢層において、世代別平均を下回る数値を記録。
【立ち上がり】同様、介護認定を受けた方の下肢の衰えが顕著であることが分かる。
年齢層ごとに世代別平均との差を見てみると、「66歳~70歳」と「86歳~90歳」の2つが特に世代別平均との差が大きい。
「66歳~70歳」については、「早期に介護認定を受ける=身体機能の低下が大きい」ことが原因であるのに対し、「86歳~90歳」は正常な測定が難しくなってきている(測定回数の平均を下げている)ことが原因である可能性が高い。
ステッピング
敏捷性の指標である【ステッピング】。
決められた時間内の足の開閉回数、ということで数値が大きい方が高評価であり、加齢とともに数値は減少していく。
ビーナスにおける計測では、全ての年齢層において、世代別平均を下回る数値を記録。
やはり動的な運動項目においては、平均的な高齢者に比べて、身体機能の低下が見られる結果となった。
ただし、世代別平均との差を男女で比較すると、「女性の方が差が小さい=平均的な高齢者に近い値」ということで、ビーナスに通っていただくことで、男性は筋力が伸びやすく、女性はバランスや敏捷性が伸びやすい傾向にあると分かる。
測定結果をもとに設計している運動プログラムへの想い
5つの項目のうち、【握力】や【開眼片足立ち】といった単一動作の運動項目については、世代別平均を大きく上回ることが出来ました。
一方、【ステッピング】には惜しい結果も有りましたが、【立ち上がり】や【タイムド・アップ・アンドゴー】といった複合動作の運動項目については、世代別平均に届きませんでした。
これらの結果をもとに、現在のビーナスでは体幹や複数の筋肉を使う動作を中心とした運動プログラムの実施に力を入れています。
なぜなら、【立ち上がり】や【タイムド・アップ・アンドゴー】のような複合動作は、まさしく日常生活での動作レベルに直結するからです。
「日々の生活が楽になる→もっと運動したくなる→よりいっそうADLが維持・向上する」という良いサイクルを目指すことが、「運動のビーナス」としての役割だと考えています。
これからも、ご利用者様お一人お一人に寄り添いながら、運動の大切さを伝え続けていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
本記事では、ビーナスのご利用者様のADLの特徴についてご紹介させていただきました。
「後編」の下記の記事では、弊社の運動プログラムを半年間継続していただくことで、どのようなADLの変化が起きるのかについて分析していますので、ぜひあわせてごらんください。